犬の前十字靭帯断裂の手術について|TPLOを実施した犬の一例
「犬が急に後ろ足をあげて痛そうにしている」
「散歩していたら犬が足を痛めたのか、歩かなくなった」
急にこのような症状がみられたら心配になりますよね。
上記のような症状がみられたら、前十字靭帯が断裂している可能性があります。
前十字靭帯が断裂したら自然に治ることはないため、基本的には手術がすすめられます。
今回は当院で手術をした症例をふまえて、前十字靭帯断裂について解説していきます。
前十字靭帯断裂とは
前十字靭帯断裂は、膝関節の安定性を保つために重要な前十字靭帯が断裂してしまう病気です。
前十字靭帯は膝関節の中にある靱帯です。
太ももの骨である大腿骨とすねの骨である脛骨をつなぎ、脛骨の前方へのずれやねじれなどを制御しています。
このように、膝関節の安定性を保つために重要なのが前十字靭帯です。
ところが前十字靭帯が断裂すると、脛骨が前方にずれるようになり、膝関節が不安定になります。
膝関節の不安定性が続くと、関節内のクッションの役割を果たす半月板の損傷や、変形性関節症の進行につながることがあります。

前十字靭帯断裂はラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーなどの大型犬に多いです。
しかし日本では小型犬での発症も多く報告されています。
前十字靭帯断裂の原因は以下のようにさまざまです。
- 転倒
- 着地時の急激な外力
- 加齢
- 肥満
- 遺伝的要因
人ではスポーツ中などに急激な力が加わって前十字靭帯が切れてしまうことが多いです。
しかし、犬では加齢とともに靱帯が痛んでしまい最終的に小さな力で断裂してしまうことがほとんどです。
また、片足に靱帯断裂が認められた犬のうち、30〜40%ほどが2年以内に反対側の靱帯も断裂すると言われています。
前十字靭帯断裂の症状
前十字靭帯断裂の症状としては以下のようなものがみられます。
- 後ろ足を突然あげる・びっこをひく
- 立ち上がりにくそう、または立ち上がるのが遅い
- 膝のあたりに触ると嫌がる・痛がる
- 運動を嫌がる
- いつもより元気がない
ただし、このような症状がみられたからと言って必ず前十字靭帯断裂が原因とは言い切れません。
パテラや骨折など他の整形外科疾患でも同様の症状がみられることがあります。
また、部分的に断裂している場合は、症状が軽度で安静にすると一時的に回復することがあります。
しかしその後断裂が進行することが多いため、早めの受診が重要です。
前十字靭帯断裂の治療法
前十字靭帯断裂は自然に治る病気ではありません。
断裂した靭帯は自然に再生しないため、放置すると膝関節の不安定性が持続し、半月板損傷や変形性関節症の進行につながります。
治療法は、保存療法と外科療法の大きく2つに分けられます。
保存療法
保存療法とは、手術をせずに病気をコントロールする方法で、以下のようなことを組み合わせて行います。
- 鎮痛剤や消炎剤による痛みの管理
- 安静
- 体重管理
- リハビリテーション
ただし、保存療法のみでは膝関節の不安定性が残るため、変形性関節症が進行するリスクがあります。
とくに体重の重い大型犬では、保存療法のみでは十分な機能回復を得ることが難しいとされています。
保存療法は長期的な機能回復においては外科療法に劣ることが多いです。
そのため保存療法が適応になるのは主に以下のような場合です。
- 体重が10kg以下の小型犬で症状が軽度
- 手術ができない全身状態
- 飼い主さまの希望
外科療法
外科療法では、手術によって膝関節の安定性を取り戻します。
前十字靭帯断裂にはいくつかの手術方法がありますが、当院ではTPLOを実施しています。
TPLOは術後の成績が最も良いと報告されている術式で、前十字靭帯の完全または部分断裂の治療法として有効です。
保存療法が関節への負担をなるべく減らして症状を管理する一方で、TPLOでは膝関節の力学的構造そのものを変えることで安定をもたらすイメージです。
TPLOとは

TPLO(Tibial Plateau Leveling Osteotomy)は日本語で脛骨高平部水平化骨切り術と呼ばれます。
米国を中心に現在では大型犬で最も普及している方法で、長期的な成績が優れていることがわかっています。
前十字靭帯が断裂すると、体重がかかるたびに脛骨が前方に滑り出します。
TPLOでは脛骨上端の一部を円弧状に切り取り、最上端の角度が水平に近づくよう回転させ、専用プレートで固定することで膝関節の安定化を図ります。
つまりTPLOは、断裂した靭帯を修復するのではなく、脛骨の角度そのものを変えることで、靭帯がなくても膝関節が安定するように力学的構造を変える手術です。
TPLOは半月板損傷や骨関節炎の進行のリスク軽減を期待できる術式で、小型犬から大型犬まで幅広く適応できます。
TPLOの手術の流れ
当院でのTPLOの手術は、以下の流れで進みます。
- 関節内の確認:関節を開き、前十字靭帯の状態・半月板の損傷の有無を確認します。半月板が損傷している場合は、必要に応じて部分切除を行います。
- 脛骨の骨切り:特殊な半円形のブレードを使用して、脛骨上端の一部を円弧状に骨切りします。
- 骨切り部の回転・角度調整:骨切りした部分を後退方向に回転させ、脛骨最上端の角度を適切な角度に調整します。
- プレート固定:専用のプレートとスクリューで骨切り部を固定します
- 閉創:皮膚を縫合して手術を終了します
実際の症例
ここでは実際に前十字靭帯断裂と診断し、TPLOを行なった症例について解説します。
症例情報
症例は9歳の女の子のノーフォークテリアです。
この症例は1年前に他院で右後肢のTPLOを実施しています。
3日前から左の後ろ足を地面につくのを嫌がるという主訴で来院しました。
視診・触診およびレントゲン検査を行なった結果、左後肢の前十字靭帯損傷と診断しました。

この症例では保存療法による症状の改善は困難と判断し、左後肢もTPLOを行うことになりました。

手術後も経過は良好で、入院してから4日後に退院しています。
退院後も定期的に来院してもらい、歩行や関節の状態のチェックを行いました。
まとめ
前十字靭帯は膝関節の安定性を保つために重要な役割を果たしています。
前十字靭帯が損傷してしまうと半月板の損傷や変形性関節炎の進行などにつながります。
この痛みから出るのが、びっこをひいたり触られるのを嫌がったりする症状です。
前十字靭帯断裂の手術は早期に行うことで関節炎の悪化抑制につながり、よりよい予後が得られます。
TPLOは専用の器具が必要なことや専門的な手術であることなどから、どの動物病院でもできるわけではありません。
当院には整形外科を学んでいる獣医師が在籍しており、内科治療から外科治療までご相談いただけます。
気になる症状があるときはお気軽にご相談ください。


大阪市城東区鶴見区の動物病院
城東鶴見どうぶつ病院
森ノ宮みどり動物病院
この記事の監修獣医師
脇谷 知明

麻布大学獣医学部獣医学科 卒業東京都内動物病院 勤務
麻布大学付属動物病院 整形外科専科研修医(2022〜)
日本獣医麻酔外科学会所属
Fracture Repair on Toy-Small Breeds Course 修了(2023)
AO Vet Course - Principles of Small Animal Fracture Management 修了(2024)
Depuy Synthes TPLO SEMINAR 修了(2024)
膝蓋骨内方脱臼に対する関節再建ドライラボ 修了(2024)


